めくるめく世界

レイモンド・アレナス『めくるめく世界』(国書刊行会)読了しました。
イヤー面白かった。エネルギッシュ且つユーモラス且つマジカル。
革命を実現させるため生涯を賭した実在のメキシコ人修道士の遍歴の物語、つまり伝記という体裁なのだけど、ありえないくらい誇大表現された奇想天外エピソードのオンパレードで物語酔いしてしまった。この誇張されたエピソードというのはキューバ政治犯として体を監視・拘束されていた作者の、監獄から想像力だけの飛躍、脱走劇とも読めました。

北南米・ヨーロッパ各国の都市の描写は神話的にさえ映る表現に満ちていて、読んでいてイタロ・カルヴィーノマルコ・ポーロ 見えない都市』を連想しました。

例えばマドリードはこんな具合。

「道路がすこぶる狭いため、人びとは体を斜めにして歩き、空を仰ぐこともできない。したがってまた、こちらがある通りを歩いているとき向こうから来る者があれば、道端にしゃがむか、窓によじ登るか、あるいは地べたにうつ伏せになって背中の上を通してやるかしなければならない。時には、誰がしゃがんで誰がその上を通るかで口論になったあげく、殺し合いが始まることもある。人家が折り重なるように密集しており、建物そのものとおなじように階段も暗かった。非常に入り組んでいるので、日光を拝むことができないのである。踏み板ごとに一家族が住んでいるために、階段を昇るときにはひとを踏み潰すことになる。」

・・19世紀スペインの描写です、念のため。メキシコシティなんて町中火が燃えていて、何で燃えてるかっていうと異端尋問で人が燃やされているからだったりして・・・・。ウーム驚きだ。

しかし『めくるめく世界』という題名は、正に言いえて妙。コルトレーン『至上の愛』並みに名訳ではないでしょうか。

ちなみに帯のコピーは高橋源一郎氏で以下の通り激賞しています。

マルケスの『百年の孤独』を凌駕する作品。」未知の巨大な長編小説が出現する度に、このフレーズは繰り返し使われてきた。だが、それが単なる宣伝文句にすぎないことをぼくはよく知っていた。なぜなら、そのフレーズにふさわしい作品はレイナルド・アレナスの『めくるめく世界』だけだからである。


流石に『百年の孤独』を凌駕する、とは思いませんが、俄然アレナスに興味が沸きました。キューバ政府から弾圧を受けるきっかけとなったらしい『夜明け前のセレスティーノ』が気になるな。


めくるめく世界 (文学の冒険シリーズ)

めくるめく世界 (文学の冒険シリーズ)