少年スギモトはいかにしてHiroshi Sugimotoとなったか

時が過ぎるのは早いものですが先日10日に杉本博司トークショー「少年スギモトはいかにしてHiroshi Sugimotoとなったか」@青山ブックセンター青山店へ行ってきました。場所は青山ウィメンズプラザ(初めて入った)で100以上入りそうな会場が満席でした。
司会は元BRUTUS副編集長の鈴木芳雄氏(個人的にブログを愛読させていただいております)。Brutusで杉本特集を組んだこともあり杉本氏とは親密なお付き合いとのこと。非常にフランクな雰囲気の中トークは進んで行きました。子供時代の鉄道工作趣味や記憶や興味が如何に今日の杉本氏に繋がっているかといったもので総じて面白かったのですが、特に興味を惹かれた内容を以下にメモ。
ジオラマシリーズの最初の三枚は美術館に許可を取らず御用写真家のフリをして勝手に撮ったのこと。曰く「自信ある風にやれば意外とバレない(笑)。」その写真をMoMAが買い上げ、招待状を書いてくれたためその後は許可が出るようになったそうな。
・そのジオラマシリーズですが、展示は背景が書割になっているため人間の目では作り物だと分かるが、片目をつむった状態で見れば本物のように見える。それがカメラの目だから、やる価値はあると思ったらしい。このエピソード以外にもアイデアをすぐ実行に移す好奇心・行動力が垣間見える話がたくさん。見習いたいものです。
・シアターシリーズも最初は田舎の場末の映画館でゲリラ的に撮ったもので映画1本分の光を1枚の写真で表現できないか試してみたもの。最初はコンセプトに沿って映画タイトルを作品名にしていたが場末の潰れそうなところの3流作品なので表現上よろしくないものが多く後半はシアター名に変更したとのこと(笑)。

Hiroshi Sugimoto: Theatres

Hiroshi Sugimoto: Theatres

ソニーなどから依頼があって(?)、豪華本を作るというプロジェクトで作ったもの。通常インクジェットだとカラー4版(CMYK)で黒は1色だが、この本は黒だけで4版刷った(1版刷って乾燥→翌日2版・・・)ものだから、版のズレが多く製品化する歩留まりが非常に悪く2割程度(!)とのこと。定価 20,000円だけどコスト的には50,000円くらいかかってるそうです。スゲー。でもこうすることによって黒の中の黒(芸術家らしい表現!)が出るんだよ、不況の今こんな本はもう作られないんじゃないかな、しかもカバーは蓄光使用になっていて夜は杉本本だけ光るんだよ、と言って笑ってらっしゃいました。ホント少年みたいな人だ。
U2アルバムジャケットになった件、ボノの知り合いに友達を紹介すると言われてボノ邸に飛行機で連れていかれファンだと言われたそうで、いい奴だと思って友達になったそう。ジャケットを撮ってくれと言われてコマーシャル写真は撮りたくないから断っていたら海景にインスパイアされた曲を聴かされ少し制作にも関わるようになった。で既にある海景シリーズ写真を使わせて欲しいと言われたから、断ると思い写真にロゴや文字が乗らなければいいという条件を出したら本当にそうなったそうな。
ノー・ライン・オン・ザ・ホライゾン

ノー・ライン・オン・ザ・ホライゾン

※海景シリーズロケの際は米を持参するとのこと。今まで一番おいしかったものは?という問いかけに答えて曰く、「フランチが続いた後に部屋で炊いたご飯」!
・直島の野外展示作品、野ざらしでプリントが風化する様を想定していたのだけれど銀塩プリントは意外と上部で僕(杉本氏)が生きてる間は残念ながら色が飛ばなそうと笑いながら話し、その後が振るっていた。曰く「ドイツの写真家(ティルマンス?)のカラー写真はすぐダメになるだろうけど 笑」。

この他にも色々とあった気がするけれどとりあえずこんなところで。それにしても折に触れて披露される鈴木氏の博識振りにも驚かされました。非常に楽しい時間でした。ミーハーながらちゃっかりサイン貰っちゃったし。